ロシアンルーレットⅢ【アクションコメディー】
返す言葉が見付からず、龍一は固く口を噤む。そんな龍一が高広には痛々しく映ったが、目を逸らすことなく真っ直ぐ見詰め、更に続けた。


「言ったって打っただろーが。どうせ打つのに、なんでわざわざ躊躇させるようなこと言わなきゃなんねんだよ?」


龍一は唇をキッと一直線に結び、高広を上目使いに睨みつけた。だが高広には、それが泣いているようにしか見えず、


「泣きべそかいてんなら邪魔なだけだ。どけ。挿管する」


言って、目の前に立ちふさがる龍一の右肩を掴み、横へと押しやった。



高広は皆人の頭側に立つと、肩から斜め掛けしていたレザーバッグを足元に下ろした。古びたそれは、床の上でクタッと潰れる。


両膝を落とした高広は鞄のファスナーを開け、中から手際よく必要な器具を取り出した。


そうしながら盗み見れば、龍一は呆然と自分の足元を眺めて立ち尽くしている。先ほどと比べたら、幾分落ち着いたように見える。

心ここに在らずといった様子ではあるが……。



「龍、何ボサッと突っ立ってんだ。さっさとアンビュー(アンビューバッグ)持って来させろ」


「あっ……ああ、そうだな。だったら俺が……」

言って龍一は出口へ向かって一歩踏み出した。すかさず高広が腰を浮かせ、龍一の腕を掴んで引き留める。



「お前はここにいろ。冷静なヤツに持って来させろ」


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