ロシアンルーレットⅢ【アクションコメディー】
「そんなことしたら、感染者が増える」

すぐさまそう返した龍一に、

「このウィルスは空気に触れると5分以内に死滅する。その情報はお前にも渡ってるはずだろ?」

高広が諭すように言う。


「しっかりしろ、龍」

そう続けて、処置に取り掛かった。



高広は皆人の頭をそっと持ち上げて、自分のレザーバッグをその下へ押し込んだ。皆人の頭の位置が少しだけ高くなる。


喉頭鏡を手にして、それを皆人の口の中へ挿入した。



「下顎拳上は?」

高広の動きをその傍らで見守っていた龍一が、堪えきれずに口を出した。



「今時やらねぇよ、そんなもん。いつの時代の医学だよ?」


視線は皆人の口元から外さず、けれど冗談ぽく返して高広はフッと笑った。



「脈はある。心配すんな、龍。皆人は絶対に死なさねぇ。俺と皆人を信じろ。ヘタレのお前が今できんのは、それぐらいだろ?」


高広がわざとらしく憎まれ口を叩き、場の空気が不思議と和らぐ。龍一の中の不安と緊張も次第に和らいでいくのを、龍一自身が自覚した。



「なぁ、高広……どうしてそこまで」


(俺と皆人のために、どうしてそこまでしてくれるのか?)と、龍一は問いたかった。


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