ロシアンルーレットⅢ【アクションコメディー】
軽口ばかり口にする高広だが、その全神経は処置に集中させていると傍から見ていても瞭然。肌寒く感じるほどの室温であるのに、高広の額には汗が滲んでいる。



今ここで、最も緊張を強いられているのは、紛れもなく高広だった。この事件とは全く無関係の科学者だ。


警察関係者ですらなく、ただ、龍一が助けを求めただけの、一般市民。



喉頭鏡を固定したまま、もう一方の手でチューブを慎重に挿入しながら高広は答えた。


「そんなもん決まってんだろ。お前の望みは――


――俺の望みでもあるからだよ」


言って、チラと一瞬だけ龍一に視線をやれば、龍一は今にも泣き出しそうな情けない顔をしている。



「クソさびぃこと言わせんじゃねぇわ! どんな羞恥プレイだよ?」

照れ隠しに悪態をついて、高広は小さく舌を鳴らした。



「確かに。俺は……俺は他の誰よりもお前を信頼してるんだった。動揺のあまり、うっかり忘れていた」


「『うっかり』って……。うっかりし過ぎだろーが。皆人以上のお間抜けさんだな、てめぇわっ」

言って失笑を漏らした高広の頬が、龍一には心なしか赤く染まっているように見えた。


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