ロシアンルーレットⅢ【アクションコメディー】
「入った」

言ったと同時に、チューブからスタイレット(挿入時にチューブの形状を保持するための針金みたいなもの)だけを抜き出す。



と、扉が開け放たれたままの入口から、

「龍、頼まれたもん持って来た。一体、誰に使うんだよ?」

呑気な声と共に、高広もよく見知った男が現れた。



「俺は『冷静なヤツに』っつったよな? なんでこいつだよ」

高広が声を潜めて龍一に言う。


皆人のこの状態を目にしたら、谷口も龍一同様、取り乱すのではないかと危惧してのことだ。



だが谷口は、一瞬だけ目を見張るも、


「皆人か……。助かるんだろ?」


誰かに問うというより、自分自身に言い聞かせるように、静かにボソリと呟いた。そして、持って来た箱型のケースから器具を取り出し、慣れた手つきで組み立て高広に渡した。



受け取った高広は、そのマスク部分を皆人の口元に密着させて固定すると、もう一方の手でゆっくり規則的にバッグを揉み、送気を開始した。


それに合わせて皆人の胸も上下する。



「後は……現役医師の仕事だな」

高広のその言葉に、龍一も谷口も安堵の息を漏らした。


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