ロシアンルーレットⅢ【アクションコメディー】
龍一はその半身を前方に倒して、両手で皆人の左手を大切そうに拾い上げた。俯いてそれを自分の額にそっと押し付け、


「ああ、神様……」


無意識にそんな言葉を漏らす。その右頬を透明な雫がつーと伝い、一筋の跡を残した。



「龍……」

バッグを揉む手は休めることなく、高広が呼び掛ける。



「すまない。とんだ醜態を晒したな」

慌てて頬を拭いながら、龍一は疲弊しきった顔に苦笑を浮かべた。



「まぁ確かに……。今のお前、みっともねぇしカッコわりぃよ。女が見たら百年の恋も冷めるだろな?

でもな、俺はあいにく男だ。人間らしいお前、嫌いじゃねぇよ。むしろ好みだね。俺さまのカッコ良さが一段と引き立つからよ」

高広は平然とそんな風に返した後、ニッと両口角を上げて一瞬だけ笑顔を見せた。



谷口が知らせたのか、入口から救急隊数名が担架と共になだれ込んで来た。たちまち部屋が騒がしくなる。


「いち、にぃ、さん」

掛け声と共に、皆人が担架に移された。



「高広」

慌ただしい喧騒の中、龍一が高広の名を呼んだ。


すぐ傍に立っていた高広はそれを聞き逃すことなく、

「っんだよ?」

とぶっきらぼうに返す。


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