吸血鬼は蒼い月夜に踊る
ディーノが黒いモノたちに覆われる瞬間、横一線に銀色の閃光が走る。

声を上げる悲鳴すらそこにはなく、黒い集団が刹那、黒い霧へと姿を変える。

と同時に、宙に放り投げられた少女の身体は再び落下してきて、すっぽりとディーノの両腕に収まったのだった。

足元でピチピチともがくように小さく跳ねる蔦の先をちらりと見ると、ディーノは磨きこまれて黒光りしている靴でそれをグッと踏みつぶした。

ビチャッと下品な音を立ててそれは青黒いシミを石畳の上に作って消え失せる。

ディーノはそれから足をゆっくりと離すと、またため息をついた。


「靴が汚れてしまったな」


グリグリと、その汚れを拭うように石畳に押し付けると「ファルスッ」と相棒の名を叫ぶ。

名を呼ばれた黒髪の執事はさっとその背後に姿を見せると、膝をつき、頭を垂れて見せた。


「お嬢さんを館へ連れ帰ってくれるかね? 我はもう少し遊んでから帰る」


少女の身体をファルスに託すとディーノはレディを握る手とは逆の手を軽く振って見せた。

そんな主人の様子にファルスは小さく笑みを浮かべると「あまり派手になさいませぬよう」と告げながら立ち上がった。


「心掛けはしよう」


ディーノの言葉に小さくため息を零したファルスの姿が刹那その場から消える。
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