吸血鬼は蒼い月夜に踊る
「させるかッ!!」


男の背から数本の蔦がファルスの姿を追うように真っ直ぐに空へと伸びるが、しかしそれはまたしても銀色の閃光によって阻まれる。

ポタポタと、地面に落ちたのはうねる蔦の先端。

切られた瞬間に悶絶するかのように縮んで男の背中へと戻っていく様をディーノは喉を鳴らしながら眺めていた。

その様子に男はさらに憤りを露わにさせた。

鼻息は荒くなり、舌先がちょろちょろと口元からせわしなく左右に動きながら唇を舐める。

うねうねと動く蔦の先からは新しい芽が伸び、そこから卑しい口が姿を見せた。

パックリと開いた蔦の口から吐き出される腐臭に、ディーノは嫌悪の視線を送った。

ガタガタと右手に握ったレディが不満を零しており、それを宥めるようにディーノはポンポンッと彼女を軽く叩いて見せた。


「臭いのも不味いのも我慢してくれないかね? 今宵はいつもよりは馳走だろう?」


優しい声音の王に対し、しぶしぶと言った態でレディがぴたりと動きを止めた。


「いい子だ……」


愛おしそうにほほ笑みながら、ディーノは柄を握る手に力を込める。

刹那、男の怒声が闇夜に響き渡り、男の背中から一気にディーノに向かって蔦が勢いよく伸びてきた。

貪欲に涎をまき散らしながら襲いかかってくる蔦をひらり、ひらりと皮一枚で躱すと、ディーノは男の鼻先に剣先をぴたりとくっつけ、小首を傾げてニヤリと笑んだ。
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