吸血鬼は蒼い月夜に踊る
高く筋の通った鼻を、くんっと風に突き付ける。

風が運ぶ生臭い血の臭いに、青年は右の口角だけをあげた。


「不幸な臭いだな」


くつくつくつ……


喉を鳴らし、青年は屋根を蹴った。

屋根から屋根へとまるで踊るかのように優雅に飛び移り、くるくると宙を舞う。

ステップを踏むように走れば、細い絹のような髪がさらさらと流れていく。

蒼い月は、スピードに乗って移動する彼を追うようにその背を照らす。

闇の壁を蹴るように、青年が走り、飛んでいく。

彼の鼻に『不幸な臭い』が益々色濃くまとわりつき始めると青年はピタリと足を止めた。

それからゆっくりと下をのぞき見た。

暗闇の中、何かがもぞもぞと蠢いていた。


一つ……ではない。


真っ赤な水溜りに横たわるモノに、群がるモノ達。

何かに貪りつき。

陰湿な音を立てながら、貪欲に飲み込み続けている。


骨を砕く音。
生肉を引き裂く音。
血が飛び散る音。


それらが重なり、不快な和音となる。
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