ここにある
詩音はもどるべきだ……!

命が危険にさられる恐怖を目の当たりにすれば、その瞬間、何を守るべきか本能が導く。

詩音だけは、帰さなくてはいけない。

「詩音!戻って…早く…」

胸まで迫った水量に息をあげ、叫べば

「戻らない」

詩音の冷静な声が聞こえた。

「なんで?!どうして?!」

さっき口に出来なかった疑問をわめき散らせば、詩音はなだめるよう強く抱きしめた。

「陶子と一緒にいたい」


詩音の言葉を聞いたのと、大きな波に頭ごと飲まれたのは、ほとんど同時だった。

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