ここにある
あたしは、詩音の腕を飛び出し、その腕を力任せに引いた。

波に背を向け、押し寄せる力を借りるようにして、海水をかきわける。

詩音を失いたくない、その一心で必死に体を動かし、海岸を目指す。


やがて、自分の体の重さをずしりと感じ、砂浜に打ち上がっていることに気がついた。

目の前に差し出された詩音の手に、詩音が確かにいることを確認し

あたし達は互いの体を支え合うように、波の届かない砂浜へ身を引き上げた。


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