ここにある
じっとあたしの心音に耳をすましている詩音を

いますぐぎゅっと抱きしめてしまいたい衝動にかられ

あたしの心臓は、より大きく鳴り続ける。

「陶子の生きてる音、ちゃんと聞こえた」

大きな音だね、と微笑む詩音の無邪気さと鈍感さに耐えきれなくなり

「次、あたしにやらせて!」

あたしは頬を膨らませながら、詩音の胸に顔をうずめた。

耳でさぐり当てた心音をみつけ、目を閉じてみる。

リズミカルに聞こえる詩音の鼓動は、聞いているだけで、暖かな気持ちになる。

波の音も何も聞こえない。

詩音の音だけが、耳に優しく響く。

生きてることが、どうしようもなく、嬉しい。

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