ここにある
あたしは、きつく握っていた詩音の手をほどき、数歩、母に近づいた。


母もまた、応えるようにあたしに歩みよる。

母と、こんなに間近で顔を合わせるのは、いったい、いつ以来だろう。


幼い頃、子供心に美人だなと思った母の顔。

小ぶりの顔に、形のいい大きな目と、ふっくらとした小さな唇。

父親似だと言われるあたしは、母のような顔になりたいと、いつも憧れていた。

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