ここにある
今、その母の顔に深く刻まれたしわや

柔らかさを失った、痩せた頬を見ていると

もう何年も母の顔を見ていなかったような錯覚を起こす。


あたしが、母をじっと見つめていると、母はあたしの少し後方にいる詩音を見た。

軽く表情をゆるめ、会釈したあと、ふっとあたしに視線を戻し、口元にきゅっと力を入れた。


そして一歩、踏み込み、思いっきり平手を振り上げた。


ぶん、と風を切る音が聞こえた。


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