ここにある
「陶子!」

血相を変えて駆け寄ってきた詩音に、思わず手を差し出してしまいそうになり

あたしは、ぐっとこぶしを握り、その手を引いた。

詩音には、もう充分、助けられた。


今は自分の力で、立たなければ…

「陶子、立ちなさい」

母の静かな声がした。

それに応えたくて、あたしはゆっくりと立ち上がった。

まっすぐに、母を見る。

真剣に母に向き合えていることに、高揚が止まらない。
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