ここにある
「お母さん、ずっと怖かった。陶子にこれ以上、嫌われたくなくて」

母が口にした言葉は、あたしが言うべき言葉、そのままだった。

あたしは、今度こそ、はっきりと問う。

「なんで?」

「お父さんと離婚した時、陶子すごく傷ついた顔してたから…お父さんに買ってもらったバック、ずっと持ってたでしょ?

陶子はお父さんについて行きたかったんじゃないかって、怖くて何も聞けなかった…」


陶子をどこにも、やりたくなかった、と涙をつまらせる母に

あたしの喉もせまくなる。

鼻にきーんと痛みが集中して、言葉が出てこない。

あたし…

邪魔じゃないの…?

ここにいて、いいの?

耳元で繰り返される母の謝罪が、その答えと知りながら

あたしは、小さな子供みたいに自問を繰り返し、母にしがみついていた。
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