ここにある
「あの…」

ようやく、落ち着いたあたしに、さっきから近くで見守っていた女性が話しかけてきた。

「陶子さん…ごめんなさいね。詩音が迷惑かけてしまって…」

どうして、最初に気がつかなかったんだろ…

申し訳なさそうに、うつむく女性が詩音のお母さんだと。

瞳に宿るまっすぐな、まなざしも

柔らかな表情も、人を包み込む暖かな雰囲気も、詩音そのものだ。

品のいい立ち振る舞いや口調は、日常の詩音の環境を表していた。

「本当に、困ったこで…」

何度も頭を下げながらも、詩音を見つめる目はどこまでも優しい。

詩音という人間が、どうやってつくられてきたのか、彼女を見ていればわかるような気がした。
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