あめ
臆病な数人はすぐに建物から出ようと試みる。
裏口はなく、ただ一直線に出口へ向かう波。
だが、脱出は不可能だった。
「騒がしいな」
人の波は、立ちはだかった大きな威圧感に気圧されて一瞬で静寂を取り戻した。
誰かが叫ぶ。
「あ、あっ…あ、あいつだ!
“炎”だ!」
煙なき炎と呼ばれる、実在した炎の悪魔。
漆黒の髪を濡らして、紅い瞳で羊たちを見ていた。
「失礼、うちの子がお邪魔してると思うんだが、違ったかな」
平然とした態度はわざとらしく、口元には笑みさえ見受けられる。
剣を抜き、黒く光る刃をちらつかせて、羊たちを脅かした。
「いるようだね、なら引き取るよ」
「うわぁぁぁぁ!!!!」