月の骨
しかし。
斎藤は、その自動車には乗っていなかったと主張した。運転していたのは彼の秘書で、まだ若い男だった。斎藤は、その時間は自宅にいて、それを証言する人間も複数いたという。
警察からそれを告げられた時、僕は頭のてっぺんからつま先にかけて血の気がひいた。強い目眩と、耳鳴りもした。
僕が見たのは、間違いなく斎藤だった。
絶対に。
斎藤は、朔夜を跳ね飛ばして逃げて、更に身代わりまで用意したのだ。彼は、そんなことができる非情さと、力を持っていたのだ。