月の骨
「いただくよ。」
彼はそう言ってプルタブを開け、口を付けた。その姿は、少し緊張しているよう見えたけれど、それでも五年前のあの時にくらべれば落ち着いていた。
彼はあの時、僕を罵り、責めて、また罵った。その姿は、今の穏やかな彼からは想像もつかない。
「本当は、君に会うつもりはなかったんだが。」
彼は目を伏せ、静かに語った。
「やはり、君のしたことは到底受け入れられないし、許せない。」
僕は手のひらの中で缶コーヒーを転がしながら、彼の言葉を黙って聞いていた。彼なりの決意があって、今この場所にいるのは明らかで、たぶん、彼なりに朔夜の名残を見つけようと必死なのだ。
僕が、彼の中に、朔夜の面影を見たように。