十五の石の物語
「それではお代を……」

「……わからんお人じゃ。
それは、おまえさんのものだと言っておるじゃろう。
代金等受けとれぬ。」

「そうは言われましても、私も理由もわからないまま、タダでいただくわけにはまいりません!」

老人は、私が一度言いだすと退くことのない性格だとすぐに見てとった様子で、少し考え私に向かってこう言った。



「ならば、代金の代わりにこの市場で売られているものの中で、一番高価なものをいただこうか。」

「……わかりました」

私は店を飛び出した。



市の中心部へ向かいながら、高価なものを並べている店を急いで探す。



(…なんだ、あの老人は。
金はいらないとか言いながら、一番高いものを欲しがるとは……)



指輪がそれほど高価なものではないことは、普段から宝石を見慣れている私にはすぐにわかった。
だが、それならそれで良い。
あの老人の思いのままに騙されてやろう…



(あの老人が驚くようなものを買っていってやろう…)


またつまらないことに意地になってしまっている自分自身に気付き、私は小さく失笑する。



(……あ…)

ふと目の端に映った指に碧の石があることを確認し、私は慌てた。
金も払わないうちに、指輪をはめたまま店を出てきてしまっていたのだ。
もちろん、それを持ったまま逃げるような気持ちはさらさらなかった。
金がないわけではないのだ。
老人の欲しがりそうな品がみつかるまで、店に指輪を戻しておこうかとも思ったが、もうだいぶ市場の方へ戻ってしまったこともあり、私はさっさと適当なものを選んで渡しに行くことに決めた。

< 10 / 414 >

この作品をシェア

pagetop