十五の石の物語
(そんな……なぜだ!?)

私は駆け出した。
あの店があったと思われる場所へ…
ところが、見間違い等ではなく、やはりそこには何もない。
私は、また引き返し、手前の店の者達に声をかけた。



「あの荷物の山の奥にあった店はどうした?」

「店〜?店ならここで終わりだ。
こっから先は荷物置場があるだけだ。」

「そんなはずはない!さっきまであったんだ!小さな店で…老人がいた…!」

「老人?爺さんかい?婆さんかい?」

「そ…それは…」

私には先程の老人の性別はわからなかった。
さして重要なことだとも思わなかったから、あえて訊ねることもしなかった。


「どんな老人だね?たとえば、格好とか、顔の特徴とか……」

「……それは…店が薄暗くて…」

「なんだね、あんた。
こんな場所で、得体の知れない老人が、しかも格好さえ良くわからないような薄暗い店を出してたというのかね。
そんな店で誰が何を買うと言うんだい。
……あんた、夢でも見たんじゃないかね。」



(そんな馬鹿な……)



私はその隣の店にも、そのまた隣の店の者にも話を聞いて回ったが、誰もそんな店は知らないと言った。



(なぜだ…?
あれが夢であるわけないではないか。
現に私の指には、今も変わらず碧色のアマゾナイトの指輪がおさまっている…!)



私は市場の元締めを探し出し、あの老人のことを訊ねてみたが、やはりそんな者は知らないと言う…



やがて陽が傾き、市場の閉まる時間になった。
客達の数が少なくなり、店の者が片付けを始め、私は途方に暮れたまま、仕方なく家路に着いた。
先程の絨毯も屋敷に運ばせた。



(……どうしたものか…)
まるで狐につままれたかのような気持ちを抱え、私は薄暗くなった空を見上げた。

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