十五の石の物語
私は、一瞬、目がくらんだような…頭の中が無になったような感覚を感じて目を閉じた。
次の瞬間、まわりの景色は一変していた。



(……ここは…!!)

優しい風がそよぎ、どこからかさやさやと言う葉っぱ達の声が私の耳に届いた。
何なのかはわからないが、甘い香りが鼻をくすぐる。
少し歩いていくと、満月の光の元で白く大きな花が鮮やかに咲きほこっていた。



(この花の香りか……)

百合の花に似た白い花畑の近くの草地に私は腰を降ろした。



(……なんと居心地の良い場所か…)



ここが天国だと言われたら、そうか…私は死んだのだな…と、ごく素直に信じてしまうような景色がそこには広がっていた。

私は、そのままその場に横になり空を仰ぐ。
そこには丸い月がぽっかりと浮かび、そのまわりでは小さな星達が無邪気な子供のように楽しげに瞬いている…

目を閉じると、今見たあの丸い月まで飛んで行けそうな気がして、私は微笑む。



「レヴ〜〜ッ!」



私を妄想から現実に引き戻すけたたましい叫び声と足音が不意に響いた。



「一体、どうしたのだ…?」

私は驚き、ゆっくりと身を起こす。



「どうしたじゃないよ!
レヴこそ、そんな所に寝転がって……何かあったのかい!」

「いや…私は何も…」

「何も…?じゃ…なんで倒れてたのさ?」

「倒れていたのではない。
月を見ていたのだ…」

「月を見てただ〜?!」

私の言葉に、サリーは呆れと怒りの入り混じった大きな声を上げた。



「まぁまぁ、サリーさん、良いではないですか。
何事もなかったのですし…」

「……あ…」

私はヴェールのその言葉でようやく気付いた。
自分が先に行き、様子をみて何事もなければ二人を呼ぶつもりだったのだが、あまりの居心地の良さにそのことをすっかり忘れていたことを…



「あ…その…なんだな…とりあえず、もう少し様子を見てだな…
危険がなければ、二人を呼ぶつもりだったのだ…」

「ふぅ〜ん、そうなんだ…
で、危険がないか月を観察してくれてたんだ…」

「サリーさん…」

サリーの痛烈な皮肉に、ヴェールは苦い笑みを浮かべた。
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