十五の石の物語
「いらっしゃいませ。」



私は温かい紅茶と軽い朝食を注文した。

早朝のためか、店内には私以外に客の姿はない。



(この二人はどういう関係だろう?親子?…いや、それにしては顔も雰囲気も似ていない。
では、年の離れた夫婦なのか?)

二人のことが特に気になったわけではなかったが、話す相手もなく、これから先の行き先も決まらないため、私は、なんとなくそんなことを考えた。



「あら、お客さん!」

不意に声をかけられ、私のつまらない物思いは中断された。
気が付くと、店の女性が微笑みながら私の横に立っていた。



「何か?」

「とっても素敵な指輪だこと!」

女性は私の手を取り、しげしげと指輪をみつめる。



「よさないか、ロアンヌ!」

女性は、店主の声等聞こえなかったかのように知らん顔をして、指輪を見続けた。



「良いアマゾナイトだね。」

そういうと、ロアンヌは私の手をなお一層自分の方に引き寄せ眺めすかした。



「お客さん、この石はね、夢と冒険の石なんだよ。
何か迷いがある時、今ひとつ決断出来ない時に、この石は必ず味方になってくれるよ。」

そう言うと、ロアンヌは私の手を離し、またにこにこと微笑んだ。



「夢と冒険の石か……それは知らなかった。
あなたは石についてお詳しいのですね。」

「詳しくなんかないですよ。
好きなだけでね。」

その言葉に私の頭にひらめくものがあった。
これ程石が好きなら、もしかしたらあの老人のことを知っているのではないかと……



「あの…このあたりに宝石商を……」

私は、言いかけて気が付いた。
あの老人が宝石商であるわけがないと。

行商をしているとしても、あれっぱかしの宝石だけで商売が成り立つわけがない。



(では、あの老人は一体……)

私の頭の中にまた新たな疑問が生まれた。

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