十五の石の物語
「その方は、ある人間の男性と恋に落ちました。
偶然、森に迷いこんで来られた方だということでした。
森の長も長い間悩んだ末に、ずっとこの村に留まる…という条件で、二人の仲を許しました。
しかし、二人の間には生まれるはずのない…いえ、生まれて来てはいけない命が宿ってしまったのです。
長は説得しました。
可哀想だがその子を産むことは出来ないと…
産まない方がその子にとっても幸せなことなのだと…
しかし、二人にそんなことは出来なかった。
そして、二人は森を出て行ってしまわれたのです…」

「そうだったの…
それは辛いお話ね…
お二人も、きっと考えたあげく、やはり子供の命を守ることを選択されたのね…」

ジネットは、マリアの言葉に頷いた。



「きっとそうだと思います。
しかし、そのことで森の長は嘆き苦しみました。
ご自分の行動を酷く責められていたようです。
長は手を尽くしてお二人の行方を探されました。
そして、やっとお二人の居場所を知ることが出来、お子さんが無事に産まれたことをお知りになりました。
森の長はそのことをたいそうお喜びになり、ご息女の代わりにご自分でこの石を採りに行かれ、大事に持っていらっしゃったのです。
いつの日か、そのお子さんに渡そうと思われていたのでしょう。
しかし、それからしばらくしてご息女がすでに亡くなっておられるという話が飛び込んできました。
森の長はその報せに大きなショックを受け、お倒れになりました。
それ以前から弱っておられた長はその頃を境にずいぶんと悪くなっていかれました。
私達種族は元々大きな悲しみや心労を知りません。
そのため、心の負担にはとても弱いのです。
……そして、森の長はこの石のことを私の父に託され…ついに旅立たれたのです…」

「…そうだったの…悲しいわね…
でも、なぜ、あなたのお父様ではなく、あなたがこの石を?」

「それは……」

話しかけたジネットの澄んだ瞳に涙が溢れ出した。
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