十五の石の物語




「おはようございます。」

次の朝、私は多少気を遣い、いつもより早めに起きたつもりだったが、ピェールはすでに目を覚まし、朝食の用意に取り掛かっていた。
灰色に変わっていたアマゾナイトは、また元の色に戻っていた。
私には詳しいことはわからないが、おそらくは湿度や温度のような何らかの影響で、一時的に変色しただけのことだろう。
気にする程のことではない。



「おはよう。もう起きてきたのかい。
昨夜はよく眠れたかね?」

「ええ。自宅よりも熟睡出来ました。」

「それは良かった。」

ピェールは嬉しそうににっこりと微笑む。

何か手伝うべきかとも考えたが、私は朝食の支度等したことがない。
却って邪魔になると考え、手持ち無沙汰にぼんやりと窓の外を眺めた。

私の部屋からの眺めとは違い、美しい湖等見えない。
窓の向こう側には雑草の繁った狭い空き地が見えるだけだった。
私は、景色を諦め、高い空に目を移した。



「おはよう!」

物音に続き、サリーの元気の良い声が部屋に響いた。


ちょうど朝食も出来あがり、私達は三人で小さなテーブルを囲んだ。
野菜のスープとパンとコーヒーだけのごくシンプルな朝食だった。



(紅茶の方が良いのだが……)

私はふとそんなことを考えながら、あまり好きではないコーヒーに口をつけた。
後で、どこかのカフェで飲めば良いのだと自分をなだめながら……



「指輪…元に戻ったんだね。」

「そのようだ。」

ピエールとサリーは私の指輪をじっとみつめ、何とも言えない複雑な表情を浮かべた。



「……さてと…
……じゃ、そろそろでかける?」

その場に漂う気まずい雰囲気を振り払うかのように、サリーがやけに明るい声を発した。



「あ…あぁ、そうだな。
ピェールさん、木の場所を教えていただけますか?」

「その必要はないよ。」

「どういうことだ?」

「あたしが一緒に行くから!」

思いがけないサリーの言葉に、私は戸惑った。
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