十五の石の物語
「後は返事を待つばかり……だな。」

「そうだね。明日が楽しみだね!」

サリーは、そう言って顔を輝かせた。



(それは良いとして……今夜はどうしたものか。
こんな所に宿があろうはずがない。
しかし、ピェールの店に帰るには遠すぎる。
今日はとにかく歩き詰めに歩いたから、腹も減っている。
せめて、何か食べる所がみつかれば良いのだが……)



「おなかすいたね……」

私が考えていたのと同じようなタイミングで、サリーが小さな声で呟いた。



「少し、そのあたりを探してみよう。」

私達は残り少ない体力を振り絞り、あたりを歩き回った。
しかし、いやな予感は的中した。
店はおろか、一軒の民家さえみつからない。
今夜は、腹をすかせたまま野宿かと、私が諦めかけた時だった。



「あそこに!」

少し先に灯る明かりが私の目に映った。
見落としていたのか、先程はまったく気付かなかった場所に…
疲れはてた身体に元気がよみがえり、私達は明かりの元へ急いだ。



そこはあまり大きくない粗末な民家だった。
扉を叩くと、品の良い年輩の婦人が顔をのぞかせた。
私達が事情を説明すると、婦人は快く部屋に招き入れてくれた。



「どうぞ、こちらへ。」

私達は別々の部屋へ通された。
そこは浴室で、まるで私達の来るのがわかっていたかのように、熱いお湯がはられてあった。
温かいお湯には、薔薇のような良い香りが漂う。
強ばった身体の筋肉がほぐれ、私は疲れが取れていくような爽快な気分を味わった。
入浴がすむと、また別の部屋に通された。
今度は食堂だった。
やがてすぐに、この家にも婦人にも不釣り合いに思われる程、豪華な料理が次々と運ばれてきた。



(これほど短い時間に、こんな手の込んだものを、それもこんなにもたくさん……一体、どうやって…?)


しかも、それらは一流の料理人が作ったようなとても見事な味だった。
一口噛み締めるごとに、今日の疲れが消し飛んでしまう程に……

食事の後には、私の大好きなダージリンティーが運ばれてきた。
豊潤なシャンペンのような香りが鼻をくすぐる…
サリーは、ワインを飲みながら、頬をピンク色に染め気分良さげに微笑む。

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