十五の石の物語
月光草の生える場所までには二時間程度かかると聞いた。
私は念のため、夕方近くになると裏山に向かって出発した。
婦人の言っていた通り、見た目よりも急な斜面が多く、ごつごつした岩肌の山道は登りにくい。
息があがり、汗がにじみ出てきた頃、小さな泉が目の前に現れた。
この場所に間違いないだろうと思ったが、しかし、予想外に早くに着いてしまったため、まだ月はそう高くには上ってはいない。

こんもりとした草の上に腰をかけ、月が上っていくのを私は待った。



(……そうだ!今、このあたりの草を摘み取って山を降り、それを月の光にかざしたらその不思議な力が宿るのではないか?
そうしたら、西の塔の魔女との約束の時間にも……

……いや、やはり無理だ。
少しは早く着くだろうが、遅れることに変わりはない。
気難しい西の塔の魔女は、わずかに遅れただけでも許さないだろう。
そんなことをしても無駄だな。)



私は諦め、ごろっと草の上に寝転んで、月の動きを目で追った。
美しい月に、耳元でさわさわいう草の音と、よくはわからないがかすかに聞こえる虫の声がとても心地良く思えた。



(身体は一つしかないし、運命は変えられない。
……いや、運命だなんて大げさだな。
そもそも、私は指輪の代金を払いたくて老人を探していただけなのに、ここ数日というもの、得体の知れないものに踊らされてばかりだ。
今も、こんな所に本当にあるかどうかもわからない薬草を探しに来ているのだから、私もどうかしている……)

そんなことを考えていると、自分自身を愚かだと思いながらも、私にはそれが妙に愉快にも思えてきた。


今までの生活では考えられなかったことだ。

私がこみあげてくる笑いを押さえていると、泉のまわりがうっすらと光っていることに気が付いた。
あの婦人が言ったことは本当だったのだ。
いつの間にか、月は天上高くに輝いていた。

私はあわてて月光草を摘み取った。
山を降りようとした時、背中の方から不意に「ありがとう」と声がした。
私は反射的に身体を翻す。
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