十五の石の物語
(これからどこへ向かうつもりだったのかわからないのでは、やはり引き返すしかないか……)

私はそう考えていたが、サリーの想いは違った。



「じきに記憶は戻るだろうって、この人が言ってくれてるんだし、もう少しここに留まってみようよ。」

「またそんな勝手なことを…それでなくとも、こちらにはお世話になっているのに…」

「いえ。そんなことならお気になさらないで下さい。
むしろ、私はあなた方のおかげで、この数日間、どれほど楽しい時を過ごしていることか…」



(……そうだった…
この男は孤独なのだ…
真昼にも陽の射さないこの暗い森の中で、誰と会うこともなく精神を病みながらたった一人で暮らしているのだ。
もしかしたら、サリーはそれでこんなことを言いだしたのか…?)

そう感じ、私は彼女の言葉に従い、しばらくこの場所に留まることを決めた。







それからというもの、私達は三人で暗い森の中を散策し、他愛のない話をしては笑い、なごやかに日々を過ごしていた。
案内人は、相変わらず、自分のことについてあまり話そうとはしなかったが、私達に一つだけ彼の特別な秘密を教えた。
それは「ヴェール」という彼の名前だ。
彼は言った。
今までずっと「案内人」または「森の人」と呼ばれていたのだと…
彼のことを名前で呼んだのは、両親以外には私とサリーが初めてなのだと。

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