十五の石の物語
「あの…失礼ですが…」

「……何か?」

男は私の声に足を留めた。



「大変不躾なのですが…あなたにお願いがあるのですが…」

「お願い…?」

黒眼鏡をかけた若い男はいぶかしげに私の顔をみつめる。



「なんだい?」

「実は…あなたのその黒眼鏡を譲っていただきたいのです。」

「これを…?」

男は、黒眼鏡の蔓を指で触った。



「はい…実は私の連れが多少目を患っておりまして…」

「なるほど…わかったよ。
このあたりには眼鏡屋がないからな。」

「その通りなのです。それで困り果ててこんな失礼なことをお願いした次第なのです。」

「わかった!なら、これよりもっと新しい奴があるから、そっちを譲ってやるよ。
うちまで着いてきなよ!」

「本当ですか!?
どうもありがとうございます!」

男の思いがけない申し出に、私は喜びを隠せなかった。
話している間も私の顔には自然に笑みがこぼれた。
小一時間程歩いた所に男の家はあった。
このあたりではそこそこ立派な構えをした屋敷だ。
彼はこの家に一人で住んでいるのだと言う。
男は私を家の中に通した。
一人暮らしのためか、広い部屋の中はかなり雑然としていた。
やたらと物が多く、散らかっている。
浪費癖でもあるのか、とにかく部屋中が物で溢れているといった印象だ。



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