十五の石の物語
「実は、緑の髪と肌を持っていたのは母だけなのです。
父はごく普通の人間です。
ある時、父が迷い込んだ森の中で偶然母と出会い、やがて二人は愛し合うようになりました。
普通の人間と母の種族の恋愛はもちろんタブーとされていたのですが、父は、一生、森の中で暮らすこと、そして子供は作らないということを長に約束し、寛大な長はそれを受け入れ、二人は幸せに暮らしていたのだそうです。
ところが、両親はその誓いを破り、母は私を身籠ってしまったのです。
禁止するまでもなく、それまで森の民と普通の人間の間には子供が出来ることはないだろうと思われていたそうなのですが、出来てしまったのです。
しかし、一体どんな子が生まれてくるかわからない。
掟を破って生まれる子なのだから、醜悪な化け物のような子なのかもしれない。
そうでなくとも、違った遺伝子が組み合わされるのだから、どんな障害をもって生まれるともしれない。
そんな子は生まれる事自体が不幸なのだ。
生まれつき重い十字架を背負った子供は、流してやることが親の勤めなのだ…その子が救われる唯一の途なのだと両親は長から諭されたそうです。
両親も一度は諦めかけたのだそうですが、やはりそんなことは出来ない!
たとえ我が子が醜い化け物でもかまわない。
愛の証である私を流すことは出来ないと、二人で森を逃げ出したのだそうです…」

思いがけないヴェールの話に、部屋の中には長い沈黙が流れた。

彼が時折見せる暗い影は、自分の容姿のせいだけではなく、生まれてきてはいけなかった子供という罪の意識から来ていたものだったことを私は知った。



「良かった…!ヴェールが無事、この世に生まれることが出来て!」

沈黙を破ったのは、場違いな程明るいサリーの声だった。



「……サリーさん……何をおっしゃっているのです。
私のせいで…私が出来てしまったばっかりに両親はあんな暗い森の中で一生を過ごすことになってしまったのですよ。」

「違うよ!ヴェールが生まれてくれたから、二人は幸せになれたんだよ。
森の中がどんなに暗くても、二人にとってはあんたが太陽だったんだよ!
ヴェールがいてくれたから、心の中は明るく暖かかったんだと思うよ!」

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