十五の石の物語
黒い幌で囲われた薄暗い空間…
目をこらして中の様子をうかがい見ると、店の奥には痩せこけた老人がうつむき加減に座っているのが見えた。



(やはり店か…)

私は背をかがめ、狭い店内に入った。



「……いらっしゃい。」

老人は見た目だけでは男性なのか女性なのかよくわからなかったが、絞りだすようなその声は、ますますその想いを強くした。



「あ…ありがとう。」

咄嗟に私はそんな風に返してしまったものの、なぜ、こんな場合にありがとう等と言ってしまったのかと、自分でもおかしな気分を感じていた。
きっと、この店の異様な雰囲気に動揺してしまったのだ。
そう考えると、なんだかいやな気分だった。



中に入ってすぐに私はある事に気が付いた。
この狭い店内の中には、売り物らしきものがないということに。



(もしかしたら、ここは店ではないのか?
しかし、この老人はさっき確かに「いらっしゃい」と言ったではないか。
……いや、何かを売っている場所でなくとも「いらっしゃい」と言う場所はあるにはある。
たとえば、占い師の店等がそうだろう。)



「クックックッ…」

私の物思いを中断するかのように押し殺したような不気味な笑い声が響いた。



「なぜ、笑うのです?」

馬鹿にされたような気がして、私は反射的にそう訊ねたが、老人はそれには何も答えず、自分の傍らから小さな箱を持ち上げ、それを私の前に差し出した。



「おまえさんが探しておるのはこれじゃろう…」

そう言うと、老人はまた薄気味の悪い声でおかしそうに笑った。



材質はわからない。
老人は、なにやら冷たい石のようなもので出来た小さな箱の蓋を持ち上げた。
その行為に、やはり、老人は私になにかを売り付けようとしているのだと感じた


「……わ、私は何も探してなどいない…」

別に売り付けるのならそれでも構わないが、私は何も探していないことは一言言っておきたかった。
すると、老人は、まるで私を小馬鹿したようにまた不気味に笑ったのだ。

つい、動揺してしまった自分自身が腹立たしく、私は眉をひそめた。





< 8 / 414 >

この作品をシェア

pagetop