十五の石の物語




「ちょっと待っててくれよ。」

家に入るや否や、男はそう言って奥の部屋に向かいごそごそとなにかを探し始めた。



「まずはこれ!」

そう言って、男はヴェールに黒い革の手袋を差し出した。
顔や髪のことだけに気を取られ、二人共手のことには気付いていなかったが、彼は手も当然薄い緑色なのだ。
本当にこの男は気が利く。



「それとこれなんだが…」

次に、男はなにやら黒っぽい液体の入ったガラス瓶を差し出した。
かすかに植物の青臭い香りがする液体だ。



「なんですか?これは…」

「これは、なんだったか忘れたけど…何かの植物の葉っぱだか根っこだかを潰したものらしいんだが…
なんでも、髪を洗う時にこれを塗りこんでおくと、髪の色が黒くなっていくらしいんだよ。
親父が白髪を隠すために買いこんだもんなんだ。
あんたのその髪、すごく綺麗なんだけど…綺麗すぎて目立っちまうだろ?
あ、俺はかっこいいと思うよ。
だけど、そう思わない奴らもいるだろうしさ。
そういう奴らに毎回あれこれ聞かれたんじゃ、欝陶しいだろう…?」

「ありがとうございます。」

「だけど、あんた、本当にいろんなもん持ってるんだねぇ!」

サリーが呆れているとも感心しているとも取れる口ぶりで、そう言った。



「ま、俺の趣味っていったら買い物だけだからな…
特に珍しいものを見ると、つい買ってしまうんだ。」

「おかげで助かったよ!」

「そんなことより、その髪にどのくらいの効果があるのか、早速、使ってみなよ。」

そう言い終わるか言い終わらないかのうちに男はその場から姿を消した。



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