十五の石の物語

(何を売りつけるつもりなのかは知らないが…
買ってなんかやらないからな!)

そう思うと同時に、私の瞳は、あるものに釘付けになっていた。
黒い小さな箱の中に並べられたいくつかの指輪…
その中に、一つの碧色の石があった。
……懐かしさなのか、何なのか…
たとえようのない感情がこみあげ、気が付くと私はその碧色の石の指輪を手に取っていた。



空と森が混じりあったようなその石は、私の指におさまるのを待っていたかのようにすんなりとはまった。



「……やっと会えたな…」

「何ですって?!」

老人は何も答えず、ただ静かに微笑む。



「……この石は…?」

老人には答える気がなさそうなので、私は質問を変えた。



「…その石の名はアマゾナイト…」

「アマゾナイト…?」

「……そうじゃ…」




(アマゾナイト……)

それは聞いた事のない名前だった。
きっと、それほど高価な物ではないのだろう。



一呼吸置いてから、私は思い詰めた顔を老人に向けた。



「……この指輪を譲ってはいただけませんか?」

さっきまで、絶対に何も買ってやらないと思っていたのに…たいした物ではないともわかっているのに、悔しいことに私はその指輪にすっかり心奪われていた。



「何?この石を譲ってほしいじゃと…」

老人は俯き、また声を押さえて笑った。



「なぜ笑うのです…?!」

「……おまえさんがおかしなことを言うからじゃ。
その石はおまえさんのものではないか…」

「この石が、私の…?」

老人は、頷きながらおかしそうにまた笑う…
そのことで私が不機嫌な顔をしているのを見てとると、老人はぎこちない愛想笑いを浮かべた。



「……笑ったりしてすまなんだな。
焦ることはない。
そのうち、きっとわかるじゃろうて……」

「何がわかると言われるのです?」

「……何もかも、その石が教えてくれるじゃろう…」

「……この石が…?」



老人が何を言っているのか、私にはさっぱり理解出来なかった。
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