[龍の国]セミテの少女
PROLOG
 ラルーシェ首都――コルン。
 王宮北塔――美麗なラルーシェ王宮に似合わぬ無骨な造りで異彩を放つ塔である。

 王宮内にある東西南の塔ならば在る各階の部屋は無く、最上階の部屋を除けば塔内部にはそこに通じる螺旋階段しかなかった。

 最上階の部屋はこれまた外面に劣らず無骨で長机と数個の椅子以外には何もない。

 あえて何かというならば、部屋の天井にあるこの塔唯一の明かり取りの窓であろうか。

 常ならば近づく者もないその塔内部で今宵、ある者達による会議が秘かに行われていた……。


「間違いなく在らせられたと?」

「昨年のあの事故で近隣の者が目撃しておる」

「迎える準備をせねばなるまいよ」

「よかろう、使者を彼の地へ……」

「では明朝、使者を出そう。今宵はこれまでじゃ」

 会議を終えた者達が長居は無用とばかりに部屋の明かりを落とし、北塔を立ち去っていく。

 無人となった部屋に唯一の窓から月明かりが差し込むとそこには人影が揺れていた。


 窓の外に影とは? 最上階にあって更なる上部である塔の先端に一体何者が?

 月が雲に遮られ次に部屋を照らした時、既に影は無かった……。
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