- π PI Ⅱ -【BL】
陣内―――………
「お前が犯人だったら良かったのに」なんて陣内は憎まれ口を叩いて、ぶすりと唇を尖らせている。
「残念だったな」
俺は陣内を睨みながら返した。
ふん、と陣内は鼻で笑うと、
「橘警視からお前を送るように言われた。来いよ」と外を顎でしゃくる。
「周が?」
「そうだけど?あの人もお前にとことん甘いよな。お前みたいなヤツどこがいいんだか」
「分かった。行くよ」
俺は陣内の言葉を遮って、腰を浮かせた。
陣内の車は周の高級車と違って、国産車の乗用車だ。俺はちょっと身を屈めて足元の埃を払った。
「どうした?」陣内が聞いてくる。
「いや」
何でもないように言って俺は陣内の車の助手席に乗り込み、車は発車した。
少しだけ拘留されていた警察署を振り返り、そして前を向く。
もうこんなところ二度と来まい。
そう思っているときだった。
急激な眠気がやってきて、俺はシートに深く背を預けた。
何だってんだ…?疲れきってて、安心したからかな…?
視界が歪む。
最初は眉間を指でつまんで、何とか眠気に対抗していたけれど、やがてその指にも力が入らなくなった。
何かが―――おかしい………
そう思い始めたとき、俺の意識はほどんとなかった。
最後に脳裏をかすめたのは―――
周の笑顔だった。