- π PI Ⅱ -【BL】
「何も気付いてないバカだと思ったが、案外鋭いな」
陣内は薄く笑って、椅子を立ち上がった。
「バカはお前だ。俺をハメようとして足元掬われたな。お前がやらかしてくれたお陰で、色々気付いたんだよ」
忌々しそうに陣内を睨むと、ヤツはうっすらと笑い俺の前に歩いてきた。
乾いた革靴の音が近づいてきて、俺は陣内を睨み上げた。
「何で!何で三好を利用した!あいつは関係ないだろ!」
「お前が苦しむのを見たかったんだよ。仲の良い同僚が疑われてるってのはどうゆう気持ちだった?」
陣内は楽しそうに笑って屈みこんだ。視線が同じ高さになると歪んだ陣内の笑顔が目に映った。
奥歯を噛み締めて陣内を睨むと、陣内はスーツのポケットからナイフを取り出した。
以前、刹那さんが教えてくれた凶器…
刃渡り10㎝ほどのいかにも切れ味の良さそうなナイフ―――だった。
ごくりと息を飲むと、陣内は楽しむかのように俺の喉元にその切先を突きつけてきた。
ひやりとした刃先に、俺は思わず顔を背けた。
「三好の営業先の人間をリサーチして、お前に似た男を捜すのは案外苦労したんだ。その後は楽だったけどね。三好の行動パターンを調べ上げて、ヤツのアリバイのない時間帯をわざわざ狙った。
お前に似た男どもをいたぶるときは楽しかったよ」
にやり、と笑って陣内は俺の頬をナイフの側面でそっと撫で上げる。リアルな冷たい感触がして、俺の背中に嫌な汗が流れた。
「お前、俺が周と水族館の話を電話でしてるとき、近くで聞き耳を立ててたんだろ?そのすぐ後でお前の呼び声がした」
陣内は肯定する意味で薄く笑った。
「俺を犯人に仕立て上げるために、周のマンションに入ったとき髪を持ち去ったのもお前だろ」
「そうだよ。三好の血液型がo型だと分かったのは途中からだ。そこから急遽俺と同じ血液型のお前を犯人に仕立て上げようと考えたわけ」
「じゃ、三好とお前が同じ血液型だったらお前は三好に近づいて、同じように犯人に…。でも血液型だけで犯人と決め付けるほど警察もバカじゃないだろ?
今はDNA鑑定だってある」
俺が睨むと、陣内は表情を拭い去って肩を竦めた。