- π PI Ⅱ -【BL】
―――…
パトカーのサイレンが慌しく近づいてきて、周と刹那さんの助けでようやく手錠から逃れることができた。
陣内は言い訳もせずに大人しく逮捕されていく。今更抵抗する気なんてないのか、それとも……
その、のっぺりとした能面のような横顔を見て俺は声を掛けた。
「陣内―――!!」
陣内は無言で振り返ると、うつろな目を俺に向けてきた。
「お前、本当はこうなること分かってたんだろ?俺を殺す気なんて最初からなかったんだろ?」
「おい、ヒロ」周が俺の肩を掴んで引き戻そうとしたが、俺はその手を払った。
陣内は口元にうっすらと笑みを浮かべ、
「最後まで嫌味なヤツ。そんないい子ぶらなくても今さらなんとも思わねぇよ」と吐き捨てるように言った。
「お前こそ、ワルぶるのはやめろよ」
俺が言うと、陣内は笑みを消して顔を上げた。
「お前、言ったよな。周は憧れだって。汚い世界に、唯一正義に輝いてたって。そんな周に間違った犯人を逮捕させるとは思えなかった。
お前―――ホントは周に止めて欲しかったんじゃないのか?
周、あんたもそうゆうつもりで陣内を逮捕したんじゃないの?」
「ヒロ―――…」周は困ったように眉を寄せ、俺を見下ろしてきた。
その瞳には、俺の予想が正しかったのだろう。こいつには珍しく辛辣な光を湛えていた。
「周はいつだって一生懸命だ。三好がたとえ俺の同僚だとしても、たとえこいつが真犯人だとしても―――こいつは躊躇わず逮捕してただろうよ」
ちらりと三好を見ると、三好はびくりと肩を揺らし目を丸めた。
「陣内、このままでいいのか!言いたいこと言えずにこのまま刑務所にいっちまってもいいのか!?」
陣内は俺の問いにちょっとだけ目を開けると、すぐに目を細め、俺が見るはじめての温かい瞳を揺らし、
「橘警視―――……本当にいい奥さんをもったものだ。
今までお世話になりました。ありがとうございます」
ゆっくりと頭を下げ、パトカーの中に入っていった。