- π PI Ⅱ -【BL】
――――
――
洗面所の鏡の前に立ちながら、俺はム~っと顔をしかめた。
やっぱ痕になってる。
今日会社を休むとは言え、この生々しいまでの痕はちょっと…
しかもこれ、一日で消えそうにないし…
絆創膏でも貼るか?いやいや、そんなあからさまなのはなぁ。
だけどこのままよりいいかな。なんて考えること10分。
「いつまで鏡と睨めっこしてる?もう行くぞ♪」なんて相変わらず勝手な周は俺の腕を強引に引く。
今日の周のお召し物は―――
ミディアム丈の黒いスウェードコートに、白いカットソー。両脚の腿の部分にジップをあしらったおっしゃれ~な細身パンツ。
くそっ…私服も嫌味なぐらいキマってやがる…
あんまり見ない私服姿にちょっとだけ見惚れていると、周は顎に手を当ててまじまじと俺を見てきた。
「……なんスか?」
そりゃこんなにキマった周の隣で歩くのはちょっと気が引けるけど…
女の子と違って、男のお洒落にも限度がある。それでもいつもより念入りに髪をセットしたつもりだし…
だけど周は、
「お前は俺を誘っているのか?」なんて言い出しやがった。
「はぁ?」
こいつがわけ分からんことは今にはじまったことじゃないからな。あまり真剣に考えずに俺はマフラーを首に巻いた。
ちなみに俺は程よく色落ちしたビンテージ風のジーンズに、2枚襟になってるシャツ、その上に濃いグレーのカーディガン羽織った格好だ。
お♪今気付いたけど、マフラーすりゃキスマークが見えなくなるじゃん♪
なんて考えてると、周はマフラーを俺の首から取り上げた。
「何すんだよ!」と目を吊り上げると、
「そんなのしたら、俺様がつけた印が目立たなくなるだろ?」
「はぁ?ってか寒いんですけど」マフラーを取り上げようとしたけど、周はそれを高く持ち上げる。俺は思わず手を伸ばしたけど…
くそっ!届かねぇ。
「寒いなら俺様があっためてやる。だから無駄に色気を振りまくな」
なんて言ってぎゅぅと抱き寄せられた。