- π PI Ⅱ -【BL】
「陣内から?」と周は一瞬眉をしかめたものの、まだ途中だったドライヤーを持つ手を止めてケータイを受け取った。
ホントは憎き陣内からの電話なんて伝えたくなかったけど、陣内は周の部下だし、一刻も争う事件だったら大変だ。
その考えが勝った。
とことん常識人の俺、恋愛ではそれが仇になるんだろうな。
「橘だ」と周は電話に出て、二、三頷いていた。
当然ながら会話の内容なんて分かるはずもなく、しかしその場でじっと張り付いているのも迷惑だろう。
俺は何も気にしない素振りでリビングに向かった。
もやもやした何かを飲み込むようにビールを手に取ると、
「何!?分かった、10分で行く」と周の大声が聞こえてきた。
何?事件…?
俺がそう思うぐらい周の声は珍しく緊張していたし、同時に怒っているようでもあった。
「ヒロ、悪いが俺は用ができた。今日は帰れないだろうから、寂しいだろうが一人で留守番しててくれ」
寂しい…ってのはちょっと当たってるけど、留守番…?また俺を子供扱いして…
てちょっと拗ねてみたものの、俺はため息を吐いて肩をすくめた。
「分かったよ。気をつけてな」
「ああ、悪い。早く仕事を終わらせるよ。何せ週末は水族館だからな♪」
なんて言いながら手早くワイシャツに腕を通す周。
現場では…陣内が待ってる。それも心配だったが、凶悪犯相手の仕事内容が何より心配だ。
周は一体どんな事件に関わって、どんな捜査しているのか民間人の俺には言ってくれない。
俺も自ら聞いたことはない。
何も知らないまま…
俺はいつも周がこうやって急に呼び出されて現場に向かっていくとき、どうしようもない不安に駆られる。
周がいつか帰ってこないんじゃないか―――ってそんな不安に……