- π PI Ⅱ -【BL】
マイノリティ・ラブ
―――
――
ギシッ…
すぐ近くでスプリングが軋む音がして、うっすらと目を開けると、目の前に周の骨ばった手があった。
腕の拘束はいつの間にか解かれていたけれど、指先すら動かせない。
「ヒロ……俺はお前が―――だた、大切なだけなんだ―――…」
さっきの恐ろしいほど低い声とは代わって、その囁くような声にはいつもの優しさが戻っていた。
それでも俺は何も返せなかった。
俯きに横たわったまま、身動きもできなければ、何かを喋る気力すらない。
つま先から頭のてっぺんまで痛みが疼いて、あちこちの骨がきしきし鳴ってるようだ。
まるで壊れた人形のようにぴくりとも動かない俺の髪を周は反対側の手で優しくなでてくる。
俺は―――ただ周の細くてきれいな指先を、涙で滲んだ視界に捉えることしかできなかった。
周の手首から……あの爽やかで甘い香りが香ってくる。
俺が目を閉じると、目に溜まった涙が頬を伝って零れ落ちた。
その涙は思いのほか熱くて、周の掌と同じ温度を感じた。
「ヒロ。俺はしばらく本庁に泊り込みで捜査だ。今は俺が居ない方がいいだろう。
お前は俺を―――恨む?」
周の悲しそうな声を聞いて、俺は心の中で
恨んでないし、恨むつもりもない。と小さく答えた。
ただ―――
怖かった。