- π PI Ⅱ -【BL】
「周に頼まれたの。ヒロの様子を見に行ってくれって。ひどいことを―――されたのね…」
刹那さんはいつになく神妙な面持ちで眉を寄せると、俺の前髪をそっとすくった。
周の感触に似ているけれど―――全く違うものだ。
「………俺…」
起き上がろうとしたけれど、力が入らずベッドに横たわったまま目だけを上げた。
「無理しないで。動ける状態じゃないわ」
そう言って刹那さんはちょっとだけ悲しそうに微笑んだ。
確かに刹那さんが言う通り、動ける状態ではなかった。
全身の骨が悲鳴を上げる強烈な痛みこそ引いたものの、独特の倦怠感は残ったまま。
俺は刹那さんに言われた通り、横になったまま彼女を見上げた。
「―――…かっこわる…」自嘲じみた笑いが漏れる。
刹那さんはちょっとだけ微苦笑を浮かべ、無言で首を横に振った。
いつもの変な刹那さんじゃない。
常識があって、気遣いができて―――……優しい。
きっと刹那さんの本当の姿がこれなんだ。いつものはわざとそうやって演じてるだけ。
何故だかそんな風に思えた。
刹那さんはただ黙って俺の額を撫でる。
体は冷え切っているはずなのに、彼女の冷えた手のひらが妙に心地良かった。
刹那さんははじめて見せる切ないような、愛情深いようなまなざしで俺を見つめて僅かに微笑んだ。
「ヒロ―――…本気で周なんてやめてあたしにしない?」