- π PI Ⅱ -【BL】
「もう少しでお前を押し倒すことができたのに」なんて周は悔しそうに歯軋りをした。
「珍しく真面目に甘い言葉で誘ったって言うのに」
ええ…珍しく真面目で、そんな言葉を囁かれれば―――誰だって堕ちるでしょうね…
危なかった、俺!もう少しで周の毒牙にかかるとこだったよ!
「って言うかつい数時間前もしただろ!?お前どんな回復力と体力だよ!」
俺が喚くと、周はにやりと笑みを浮かべ、
「俺は一日中でもいいぞ?♪」なんておっそろしいことを言ってきたので、俺は慌てて席を立ち上がった。
冗談じゃねぇ!俺が壊れるっつぅの―――!!
叫びながらマンションを飛び出して、ほとんど滑り込むように電車に飛び乗った。
危ない、危ない。
あの変態野郎にかまってたら、会社に遅刻するところだった。
ほっと息をついて扉にもたれかかると、ふと視線を感じた。
視線を感じる―――…なんて言ったら自意識過剰だと思われるが…
だってホントだもん。
ここ数週間、じっと誰かに見られてる変な感じ。
居心地悪そうに、あたりを見渡すと、反対側の扉で同じくもたれかかっていた女の人とばっちり目が合った。
最近この時間に良く会う―――
その女の人は、まるで映画なんかに出てきそうな女優のような―――美女だった。
俺はまだ知らなかった。
このひととの出逢いが―――
また一波乱起こる幕開けだったとは。
そう。これはほんの序章に過ぎなかったのだ。