ファンファーレに想いを乗せて

「そんなこと、ないし」

なんて、分かりやすい嘘を吐くのは、触れてほしくないから。

何か話したら、また泣いてしまいそうだから。
誰かの前では、泣きたくない。



「嘘ばっか」

ふぅっと息を吐いた彼は、

「じゃあさ、なんで笑ってねぇの?なんで、ここから加藤見て泣いてんの?なんで最近、お前ら、苦しそうなの?」


その言葉が、ずきんっと胸に突き刺さる。


「苦しくなんて、ないし」

そう言い返す言葉が震えてるのが分かる。



苦しい

彼を見るのが、苦しいの。

“あずさ”って呼んで、笑いかけてくれた彼じゃないから。何も話さず、目が合っても、ただ黙って見てくる彼の視線に苦しくなるの。

何か言いたげで寂しげで。


キラキラ笑ってほしいのに。

それをさせなくしたのは、私なの?


加藤には、好きな子がいるから諦めなきゃって思うのに、諦めきれてない。

いっそのこと、加藤が彼女と一緒に歩いている姿を見たら諦めきれるんだろうか。

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