ファンファーレに想いを乗せて
「はぁ」
「先輩、これ使ってください」
溜め息こぼしてベンチに座れば、すかさず手にタオルを持って、やってきたマネージャーの伊藤。
彼女のタオルではなく、ベンチに投げ捨てるように置いてある誰のか分からないタオルで汗を拭けば、
「あっ、久保田先輩だ」
彼女がそう呟いたので、ふと、彼女の視線と同じ方を向けば、そこには、校門を出て、帰宅する彼女の姿があった。
いつもなら、あずさって呼んで手なんか振って、彼女の笑顔を見るのに、出来ない俺は、情けない。
昇降口での彼女の辛そうな泣きそうな、そんな顔を、また見てしまうのか思えば、何も出来ない。
「久保田先輩って、好きな人、いるんですよね」
「え?」
隣にいる伊藤の言葉に反応してしまう。
彼女の名前が出るだけで、どうしようもなく胸が煩く騒ぎだす。
「好きな人には、あずさって呼んでもらいたいって言ってましたよ、先輩」
そんな伊藤の言葉に、胸がざわざわと音を立てた。