ファンファーレに想いを乗せて



放課後の練習

いつもと変わらない風景に、これまでと変わったことが一つ。

教室の窓辺にいるはずの彼女の姿がない。


これまでなら、いつも彼女がこっちを見ていた。

彼女が見ているって思えば力が湧いていた。

彼女が“頑張れ”と声援を送ってくれる。それだけで頑張れたのに。







「頑張れ」



幻聴か?

彼女の声が聞こえた気がして、ふと、自分の教室の窓辺を見上げると、


「っ……」


あずさがいた。



いつもと変わらぬ場所で、こっちを見ていた。
絡まった視線を逸らすことが出来ないのは、今、目に映る彼女が、あまりにも悲しそうで、今にも泣き出してしまいそうだから。


笑って“頑張れ”って言ってくれていた彼女の姿ではないから。



「あっ…」

声をかけようとすれば、目を逸らされ、あずさの背中しか見えなくなって、小さく肩が揺れているのが分かった。


泣いてる?

泣いてんのか?



そう思ったら、自然と、足が教室へと向かっていた。

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