ファンファーレに想いを乗せて
迎えた三学期の始め
教室に着くと、彼の姿はまだなくて、
「おはよ」
そう声をかけてくれたのは、絵里と、すぐ近くにいた桜井くんだった。
「あ、おはよ」
キョロキョロと辺りを見渡しても、やっぱりまだ彼の姿はなくて、ふぅっと軽く息を吐いた。
「あのさ、桜井くん」
「ん?」
「また、ここから野球部見ててもいいかな?」
彼の姿を見ていたいんだ。彼が頑張る姿を。
桜井くんなら、嬉しそうに“了解”って言ってくれると思って言った言葉だったのに、彼は、
「あのさ、久保田…」
遠慮がちにそう言う桜井くんに、何となく胸のざわつきを覚えた。
何を言われるんだろう。不安になって彼を見ていたら、
「じゃあ、加藤先輩、また放課後!」
甘ったるい声が廊下からして、ふと廊下に視線を移せば、そこには、伊藤玲花と腕を組んで教室まで来た加藤の姿があった。