ファンファーレに想いを乗せて

一瞬、驚いたような表情をした彼に、なんてことを言ったんだろうと後悔した。

こんな風に言われたら困るのは当たり前だよね。

私達は、あの頃とは違うんだから。


差し出した辞書を引っ込めようとした時、

「助かる」

そう言って、私の手から辞書を受け取った彼は、

「ありがと、後で返すわ」


そう言って、片手で辞典を軽く持ち上げ、照れたように笑うから、

「あ、うん」

そう言って胸の高鳴りを抑えようと平静を保って返事をした。



彼の笑顔を、久しぶりに見た気がした。
遠くからは見たことはあったけれど、笑いかけてくれたことはなかったから。


彼の笑顔は、変わってなかった。
キラキラした笑顔は、あの頃と同じ。
何も変わってなんてなかった。

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