ファンファーレに想いを乗せて

その日の授業が全て終わり、鞄に教科書を詰めて帰る準備をしていた私に、


「あずさっ」

と廊下から聞き慣れた彼の声が聞こえたような気がして、ふと、廊下を見ると、ふわりと笑う彼と目が合った。


「久保田っ!」

そう呼んで、手に持っていた辞書を軽く上げ、返しに来たと言うことをアピールした彼の元へと歩いていく。




そうだよね。

“あずさ”なんて呼ぶわけないよね。
彼には彼女がいるんだから。彼女が嫌がることはしない。

“あずさ”なんて呼ぶわけないんだ。

私のただの聞き間違い。
加藤が、あの頃のままだから、あの頃と同じように笑ってくれたから、だから、そう聞こえただけ。

< 150 / 224 >

この作品をシェア

pagetop