ファンファーレに想いを乗せて
「さんきゅ、な」
そう言って、辞書を私の手に乗せた彼の指が触れ、どくんっと一瞬、胸が大きく音を立てた。
あぁ、私は、まだこんなにも彼のことが好き。
彼に特別な子がいるって分かっているのに、好きな気持ちは変わらないんだ。
目の前の彼を見つめながら、そんなことを考えていたから、
「ん?」
彼が、どうした?というように聞いてきたから、
「あっ、ううん、何でもない、です」
ぼんやりしていた自分が恥ずかしくて動揺してしまい、可笑しな返事をしてしまった。
「くくくっ」
そんな私の態度に、堪えきれないと言わんばかりに笑う彼の、その独特な笑い声が懐かしく、この瞬間だけ、時が戻ったような気がした。
あの頃と同じ私達が、ここにいた。