ファンファーレに想いを乗せて

「なっ……!」


ふるふると握りこぶしを震わせてこちらを睨み付ける彼女は、



「じゃあっ!なんで、加藤先輩に辞書なんて貸してるんですかっ!先輩の気を引こうとしてたんじゃないんですか?そんなことして先輩に近付くなんて、最低っ!」

そう一気にまくしたてた。

やっぱり、そのことで、怒ってるんだ。
誰に聞いたのか、何処で知ったのか分からないけれど、でも、


「そんな風に言われる筋合いなんて、ないと思う」


ごめんと、謝罪の言葉の代わりに出たのは、彼女を更に怒らせるであろう言葉。


だけど、間違ったことは言ってないつもり。
今、ここで彼女に放つ言葉は謝罪の言葉じゃない。



「何っ」

「私は、ただ、加藤が困っていたから貸してあげただけ。それだけだし」


困っている人をみたら、そうやって手を差し伸べるだろう。声をかけるだろう。

それが誰であろうと。

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